不登校ひきこもりの就労支援は主に3つの種類に分けることができます。1つは「コミュニケーション」に慣れること。もう1つは仕事の「経験」をすること。最後に「技術習得」をすることです。

「コミュニケーション」って?

不登校ひきこもりを長く経験すると人付き合い、つまりコミュニケーションの感覚が鈍ってしまいます。不意に声が出ないとか、何を話したら良いか分からないとかですね。特に敬語は不登校ひきこもり当事者の苦手分野です。家にずっといたら「感謝申し上げます」なんて言葉使いませんし。

どんなことを教わるの?

いわゆるビジネスマナー、TPOです。挨拶の仕方、お礼の仕方といった基本的なことから、電話応対といった応用編まで。敬語を学ぶことを含めて、社会参加する上で基本的な技能です。特に面接、履歴書の書き方などは不登校ひきこもり当事者にとって難易度が高いですが、仕事に応募する上で役立つことです。

また多くの場合、書類作成、メールでのやり取りなどを学ぶ過程でPCの操作方法も教えてくれます。Word・Excelの基本レベルまでなら十分でしょう。「技術習得」を兼ねたものです。

どこで教わるの?

就労移行支援、若者就労サポートを掲げている団体は概ね実施しています。

「コミュニケーション」に慣れるコツ

私が考えるに一番重要なのはシミュレーションだと思います。人付き合いが必要な場面を設定し、相手が話しそうな言葉を想像し、それに対してどう応対するかを考える。このシミュレーションによって心構えができます。心構えは心の余裕を生み、人付き合いの慣れに繋がります。

シミュレーションをするには「経験」と敬語などの知識が必要となります。「経験」については別途説明するとして、「コミュニケーション」の知識は前述のように身に付けるのが良いでしょう。

「経験」を通じて学ぶのも悪くはありませんが、ハッキリ言って1人で習得するのは難しいです。意地を張らず教わりましょう。

「経験」って?

就労体験などを通じて仕事に慣れること。そして自分に適した仕事を探すことです。実際に仕事を経験すると、向き不向きといった適正、好き嫌いの選択基準などが自分の中に芽生えるものです。

ただ「仕事をしなきゃいけない」と焦っても何をして良いのか分からないものです。自分の中にある程度の基準がないと仕事選びも難しいですから「経験」を通じて基準を身に付けます。長く仕事を続けるにも必要な感覚です。

それでは「経験」を得るにはどうしたらよいでしょう?

就労体験

まず挙げられるのが就労体験です。支援団体が提携している会社・店舗に依頼して、利用者(ひきこもり当事者)を受け入れてもらい、一定期間就労します。内容は受け入れ先の会社・店舗次第です。まずは選好みしないのが良いです。何が自分に適しているか分からないものです。「ちょっとだけ背伸び」がコツです。

苦しくなったら支援団体の相談員に言ってください。受け入れ先も利用者が仕事を辞めることは想定しています。遠慮は無用です。

作業所

支援団体が就労体験の場を設けている場合もあります。いわゆる作業所です。障がい者向けの作業所をご存知の方は多いと思います。近年はひきこもり当事者向けの就労移行支援を行っている作業場もあります。

作業所は「一定の接客がある」「決まった工程がある」「一人で黙々と取り組める」などの傾向を重視して内容を決めているようです。例えばパン屋、レストランなど。簡単なPC入力作業もあります。スタッフが常駐し、利用者の補助をしています。

期限付きバイト

バイトをするのも良いです。日雇いから1週間、1カ月の期限付き雇用と徐々に雇用期間を長くするのが良いでしょう。こちらは自分で探す、もしくは知人から紹介してもらう必要があります。

選ぶコツとしては「少し物足りない期間」「何となく仕事内容に当てがつくもの」を選んでください。同じ仕事を経験している人にどんな内容か聞くのも良いでしょう。

バイトの場合、自分でバイト先の担当者に「辞めます」と言わねばなりません。ですから自分が仕事をやり通せそうな内容と期間を考えてバイトを探してください。「あの日までやれば仕事は終わり」というのは心の支えになります。

ボランティア

就労体験も短期バイトも厳しいと思う人は、ボランティアに参加することをお勧めします。内容次第ですが、仕事に近いことを行います。

大抵の場合、無償であることが多いので交通費・食費分ぐらいは出費しなければなりません。ですが給与が発生する仕事よりも責任は重たくないので、気軽にやることができます。就労支援を目的とした団体ではボランティアもやっていることが多いです。

当事者グループ・家族会

他に当事者グループが自助活動の一環としてやっている活動(冊子作成など)、家族会がやっている居場所の手伝いなどもお勧めです。人付き合いにまだ自信がない場合、理解のある人たちがいる場所でゆっくりと活動するのも悪くありません。十分経験になります。

「技能習得」って?

ここまでになると不登校ひきこもり支援の範囲ではなく、ハローワークなどの雇用対策の範疇になるでしょう。

必要最低限の技能は就労移行支援、若者就労サポートなどで十分に教えてくれます。専門性のない仕事でしたら大丈夫です。ですが専門性のある仕事に就職したい場合は相応の手段が必要です。

職業訓練

専門知識、専門技能を習得する上で一般的な方法の1つです。ハローワークなど行政機関が職業訓練所を主催していることが多いですね。インターネットなどから申し込んでください。

「手に職をつける」には手っ取り早いといえます。例えば、鉄工所に勤めるためには溶接の技能などが必要になりますので、まずは職業訓練所で勉強することになります。

大学・専門学校

教員資格がほしい、介護職を目指している、美容師になりたい、料理を習いたいなど、専門知識と資格の取得を目的とする場合は大学・専門学校への進学が必要となります。進学に関しては別途「学習支援って何?」をご参照ください。

不登校ひきこもりから就職することの難しさ

現実として不登校ひきこもりの就職は難しいことが多いです。学歴・職歴など履歴書の空白、不登校ひきこもり経験があると知った途端、手のひら返しをすることは珍しくありません。残念なことに世間一般では不登校ひきこもり経験は軽蔑の対象となりやすいです。もしくは同情の対象として見られます。

例えば、面接で落とした挙句「これから頑張らないといけないね」「親孝行しないと」と言う人事担当者がいます。おそらく善意なのでしょうが、非常に質が悪いと言わざるを得ません。

不登校ひきこもり経験者を劣った者であると考えており、しかも正論によって説き伏せる行為。善意・正しさ・情け。何であろうと不登校ひきこもりを一個の人格として対等に扱っているとは到底思えません。

しかし、このような軽蔑からの善意を向けられるのが現状です。

また不登校ひきこもりが就職において敬遠される要因に「戦力として期待できない」と考えられてしまう点があります。

雇う側から不登校ひきこもり経験を見た場合「本当に仕事ができるのか?」「急に休んだりしないか?」など不安要素が多々あります。余程の理解と受け入れる環境が整っていない限り、雇う側は二の足を踏みます。

これは不登校ひきこもり当事者・経験者の方も同じ不安を抱えている場合が多いですから、致し方ないことではあります。

就労支援は何のためにある?

不登校ひきこもり当事者・経験者はどうしても社会参加の経験が不足しています。必要な技能が不足している以上に自信がありません。このため相手からは頼りなく見えますし、当人も「どうせ無理だ」と諦めてしまうことが多いです。

就労支援で必要な技能を習得し自信を深めることが、相手に「もしかしたら…?」と期待を抱かせることになります。

また支援団体が行っている職場体験の受け入れ先は、不登校ひきこもりに対して一定の理解があり、職場体験から就労につながるケースもあります。

支援団体からの仕事紹介も十分あり得ます。理解ある企業探しのために支援団体のお世話になるのは良い方法です。