子どもの権利条約ながさきネット『山下英三郎氏講演会 こじれた関係をどう修復するか ~”修復的対話”というアプローチ~』に参加してきました
アニです。
8月25日に行われた子どもの権利条約ながさきネット主催の『山下英三郎氏講演会 こじれた関係をどう修復するか ~”修復的対話”というアプローチ~』に参加してきました。
講演者である山下英三郎さん(日本社会事業大学名誉教授)は、日本初のスクールソーシャルワーカーとして実践活動をされたという、その業界(?)では有名な方です。
今回はこじれた人間関係を修復する方法の1つ、「修復的対話」について講演されました。
これはアニが山下さんのお話を伺っての解釈ですし、正直、今回は難易度が高い話もあったので、分かりやすいようにしてます。
事実関係が間違ってるのはダメですが、話が前後するや、見解の相違ぐらいは許してください。
あと、ちょっと専門的な用語もあるので、アニの方で勝手に解説してます。ウィ〇ペディア先生とかで(笑)
「それ違くね?」と思ったら、コメントやメールでフォローをお願いします。
コンフリクトについて
コンフリクト(conflict)とは、 相反する意見・態度・要求などがあり、互いに譲らずに緊張状態が発生すること。対立や軋轢のことです。ビジネス用語としての方が知られていますかね。
家庭の場合であれば、虐待・DV・離婚など。
職場であれば、セクハラやパワハラなど。
地域の場合であれば、差別とか偏見。村八分なんて言い方もされますね。
世界であれば、戦争・紛争・テロリズム。
学校でいうと、ケンカ・いじめ・学級崩壊など。
トラブルがあった場合、何かしらのリアクションがなされます。無視したり、我慢したり、闘ったり、そして話し合ったり。
話し合いは一見良さそうに見えますが、実際には興奮して言いたいことが言えなかったり、相手が怖くて思ったことを言えなかったり、言いたいことがあり過ぎて相手の話を聞かなかったりと、中々上手くいきません。
子どもであればなおさらです。
子どもと子どもの対立の場合、第三者が介入することがあります。保護者であったり、学校の先生などです。
大人の介入があると、子どもの気持ちは無視されて、大人の言うことを聞かなければならない。いわゆる手打ち的な妥協で、問題を解決しようとすることもしばしばです。
「ほら、謝りなさい!」と親から言われた子どもが、本当に納得して謝罪しているかは怪しいところです。子どもには子どもの言い分があります。
コンフリクトへの対応
こういったコンフリクトに対応するためには、当事者双方にアプローチ・サポーターを行う必要があります。被害・加害が発生したケースの場合であれば、以下の通りになります。
被害を受けた側
心理面や生活面での“継続的”なサポート。そのサポートのネットワーク構築やサポーターの確保。
加害を与えた側
加害行為に至る生活背景の把握し、反省を意識させ、相手へ共感させること。加害の根底には、ある種の被害感情が存在する場合があります。
例えば、相手にからかわれて、つい暴力を振るってしまったなどは想像つきやすいと思います。
特にいじめは自尊感情を著しく傷つけるそうです。人を大切にするという事は、“その人”を大切することです。
被害者は当然、加害者も大切にすることが必要です。
このような対応をすることで、両者へのケアと関係の修復を目指します。
対応には以下の4つが必要です。
- 当事者のニーズをキャッチすること
- 当事者の声を聴く
- 当事者の声を聴く場・機会を保障する
- 当事者を解決のプロセスに参加させる
これらコンフリクトへの対応、つまり予防と解決に焦点を当てたアプローチが修復的対話です。予防という点もかなり重要です。
修復的対話とは?
修復的対話とは、コンフリクトが発生した当事者だけでなく、中立的な立場の存在が介在し、平和的に対話を進める方法です。
修復的対話とは英語で「Restorative Justice」、直訳すると修復的司法、修復的正義となります。一般的にはこちらが知られています。
また修復的対話・修復的司法など、類するものを総称して「RJ」とされることが多いようです。
起源はアメリカの先住民の対話法、古代ギリシャ、ローマの問題解決の方法など諸説ありますが、どの地域でも似たようなことは行われていたようで、普遍的な方法だったようです。
修復的司法について
修復的司法と呼ばれる名の通り、司法、特に犯罪に関わる分野で知られた方法論です。刑事司法制度とは違う形で、犯罪者を更生させようとする考え方です。
ちょっと比べてみましょう。
刑事司法制度の場合
- 侵害は罪を生む
- 犯罪は法律と国家に対する侵害行為
- 正義とは国家が罪を決定し処遇することで実現する
- 加害者への否定
- 国家・専門家が主導する
- 過去に焦点
- 一方的な罪の宣告
- 対立的な決着
- 因果応報による均衡
目的は「加害者への負の報酬」となります。
修復的司法の場合
- 侵害は義務を生む
- 犯罪は人と、関係性に対する侵害である
- 正義とは被害者、コミュニティーの参加者によって実現する
- (加害者も含めた)参加者への敬意と平等
- 将来に焦点
- 対話の重視
- 合意による決着
- 関係回復による均衡
目的は「被害者のニーズを満たすこと、加害者が修復する責任を負うこと」となります。
山下さん曰く「このくらいでいいかな?」ぐらいの癒しの塩梅を求める感じだそうです。
身近な問題の時の修復的対話
修復的司法の話を、よくある身近な問題のレベルに落とし込むとどうなるでしょう?
一般的な問題への対応と、修復的対話の対応を比べてみます。
一般的な問題への対応
- 一方的な場合がある(立場の上下関係)
- 当事者を引き離す(大人など第三者の介入)
- 規則違反を考える
- 責任の追及を行う
- 相応の制裁を与える
- 謝罪と赦しを押し付ける(例えば、大人が諍いを起こした子どもに「謝りなさい」「謝ったから許しなさい」と仲裁する)
- 過去に焦点がある
これらの目的は「行動の改善」です。
修復的対話での対応
- 双方向的(立場の上下をなくす)
- 当事者間の対話
- 起こってしまった出来事による影響を考える
- 責任の取り方を模索する
- 自発的な謝罪、赦し
- 関係を再構築する
- 現在・未来を重視する
修復的対話の目的は「関係の改善」です。
おそらくですけど、前者の方は馴染があったのではないでしょうか?
自分たちが如何に法治国家に生きてるかが分かります。
山下さんは特に「参加者への敬意」が重要であると仰っていました。
修復的対話・修復的司法は敬意・尊重の気持ちなしでは成立せず、そこが一番のハードルであるそうです。
「相手を人として扱わない」ような状態では、修復的対話を行っても却って状況を悪化させることになります。
相手を人として否定しないレベルの状態まで事前準備して、初めて実施できるのが修復的対話です。
修復的対話の意義
修復的対話を行うことで、実際どのような意義、効果があるのでしょうか?
被害者の側
被害体験を語ることによる癒し
辛い体験を語ることによって、気が晴れる感じでしょうか。
いじめの被害者、犯罪被害者、災害の被災者など、辛い思いをした人が自身の体験を語ることで、気持ちの整理できるという話は聞いたことあるかとおもいます。
謝罪を受けることでの癒し
加害者の自発的な謝罪を受けることは、気が収まるキッカケになります。謝罪を受け取るか否かは被害者次第です。
自分を気に掛けてくれる存在
自身の話を聞いてくれる共感してくれる存在を実感することで、1人ではないと知ることができます。
加害者の側
行為の影響を知る
被害者の側から直接、自身の犯した行為の影響を知ることで、自発的な反省を抱くようになります。
自尊心の保持
行為を否定されることはあっても、全人格を否定されないため、自尊心を維持することができる。
自尊心があると、人を大切にするという感覚が湧く。
双方の側
関係の再構築
対話によって、互いの関係が再構築され、将来的にな展望が明るくなりやすい。
修復的対話・修復的司法を用いた取り組みは実際に行われいて、アメリカでの『被害者加害者和解プログラム(VORP)』や、南アフリカのアパルトヘイトの真相究明を目的とした『真実和解委員会』などが知られています。
修復的対話ってどうやるの?
主にコンファレンスとRJサークルの二つがあります。
コンファレンスについて
コンファレンスはコンフリクトが発生した場合に行われ、関係の修復、解決を目的とします。例えば、いじめの当事者同士の対話などです。
被害・加害の双方の当事者に加え、ファシリテーター(進行役)・メディエーター(仲介人)と呼ばれる中立的な存在が参加します。
ファシリテーター・メディエーターはあくまで中立であり、個人的な意見、感情表現は控えます。
双方が罵り合いにならないように気を配り、参加者全員が発言できるように配慮し、話をまとめ、アフターフォローを行います。
合意書を作成することもあります。
特に重要なのが、当事者が対話するまでの事前準備で、当事者が相手を人間的に否定しないレベルまで、気持ちを改善させる必要があります。また対話が不調に終わり、二次的な被害を双方に与えないようにしないといけません。
コンファレンスを行っている時点で深刻な対立があるので、一度の失敗が命取りになることがあります。
このように、コンファレンスは修復的対話の中で難易度が高く、素人が聞きかじってできるレベルではありません。
山下さんも事前準備が特に必要で、非常に難しいとお話されていました。
補足ですが、コンファレンスは当事者双方が揃った状態で行いますが、一方の当事者しかいない場合、加害・被害がないケースなどではFGC(ファミリーグループコンファレンス)というものが行われます。
RJサークルについて
RJサークルは人間関係づくり、相互理解など信頼関係を構築します。コンフリクト予防を目的としたものです。
学校での取り組みが一番らしい話です。
アニ的には、他の場所でコンフリクトを起こさないようにする予防という観点なら、当事者会・家族会での語りの場もRJサークルに類すると思います。
参加者は不特定(RJグループが行われる集団に属しているのは必要)で、キーパー・ファシリテーターという中立的な役割の存在がいます。
キーパー・ファシリテーターは、あくまで参加者の一人という位置付けで、質問や話題を提供します。個人的な見解を述べるのはアリです。
全員参加・発言できるようにするのはもちろん、グループの枠組み(価値観や指針)を見失わないようにするのも重要です。
RJサークルのやり方
行うにあたって、決められたルールはないですが、ベーシックな内容をご紹介しておきます。
- 全員が輪になって座る(テーブルはない方がいい)
- オープニングの儀式(運動、音楽、朗読など、特に決まりはない)
- センターピース(サークルの真ん中に何かシンボルになるような物を置く)
- トーキングピースを発言者に渡す(持っている人だけが発言できる。物は何でもいい)
- 話がしやすいような質問、前振り(キーパーなどの役割)
- 発言する人にトーキングピースを廻し、全員が発言できるようにする
- クロージングの儀式(特に決まりはない)
話すテーマはライトなものが良いそうです。ディープなテーマは参加者の関係性がある程度ないと難しいそうです。
RJグループは、他人に敬意を以て接し、他者の意見を聴く、集団の中でのコミュニケーションを学ぶ場といった感じです。
これによって深刻ないじめなどは予防できるそうですが、ちょっとしたトラブルぐらいは、人間関係では仕方ないとのことです。
コンファレンスと比べて、キーパー・ファシリテーターの難易度は低いので、修復的対話の実践を志す方は、まずここからはじめるのが良いそうです。
アニ的には、親の会や当事者会の世話人みたいな役割と感じました。
修復的対話の課題
一見理想的に見える修復的対話にも問題がない訳ではありません。
社会的な誤解
欧米などでは比較的取り入れられている修復的対話も、日本ではそうではなく、特に被害者に赦しを強要する方法だと誤解されているそうです。
また欧米と違って、日本人は議論を敬遠しているところも影響があるようです。
時間が必要
一人一人が発言・参加する修復的対話は、とにかく時間が掛かります。早い決断を要することには向きません。
人材の育成
ファシリテーター・メディエーター・キーパーの決まった育成プログラムというのは現状ありません。山下さんたちなどが行っている研修などはありますが、今のところ資格的なものではありません。
つまり、ファシリテーターなどの質の担保がなされていないのが、結果として修復的対話の誤解を広めることにつながりかねないということです。
素人が安易にコンファレンスしようものなら…想像はつくと思います。
対立構造から関係性の修復へ
しかし、修復的対話は対立構造から、対話、関係性の修復、対立の予防までを行えるものです。
またその適応の範囲も世界レベルの話から、自分の身近の話まで、非常に広いです。
修復的対話は万能ではありませんが、非常に可能性のあるものであることは間違いありません。
以上です。うひー…今回もボリューム満点だった。
他にも修復的対話の歴史とか、RJグループの実例とか色々あったんですが、そこまで書くとアニの体力がなくなるので許してください。
それと、アニちょっと遅刻してイベント参加したんですが、満員御礼で資料も足りないみたいでした。
ホント人多かったです。教育関係者が多かった気がする。そんな感じで大盛況なイベントでした。
アニ的にはテクニカルな話で面白かったのですが…思ったより人が多くて“人間酔い”してました(苦笑)
後、いつも割と早めに仕上げるのに、今日まで書くの遅れたのは「これまとめるの大変じゃね?」とか尻込みしてた訳じゃないからね(笑)
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