長崎県こども未来課『第3回子供・若者の支援に携わる人材育成のための講習会』に参加してきました
アニです。
先日26日に開催された長崎県こども未来課『第3回子供・若者の支援に携わる人材育成のための講習会』に参加してきました。
まさか講習に全部参加するとは…自分でもビックリしてます。
今回の講師は一般社団法人officeドーナツトーク代表の田中俊英さん。
大阪を中心に子ども若者支援に従事されておられます。その中でも大阪市住吉区と一緒に取り組んでいる「住吉区子ども・若者育成支援事業」を例として、支援ネットワークの作り方やその内容などをお話されました。
アニの雑なメモと記憶からザックリまとめていますので「こんな感じだったのか」と分かってもらえれば幸いです。後、支援者向きの内容です。しかもネットワーク形成の話はイマイチ人気がありません。田中さん曰く「みんな現場好き」だそうです。そこらへんを考慮してよろしくお願いします。
『住吉区子ども・若者育成支援事業』について
居場所と相談・啓発・ネットワークの3要素で構成された事業です。代表的なものを紹介します。
tameruカフェ
当事者の居場所・相談のために設けられたものです。毎週火・木曜日に行われています。
一般的な居場所と違うのは時間が1時間ごと、しかもグループ分けされている点です。
相談では時間を区切るのは当たり前ですが、居場所で時間を区切るのは希だと思います。これは言及されませんでしたが、おそらく語り合う場という性質を大切にしているためではないでしょうか。
グループ分けされているのは、当事者ごとに悩みや背景が違うためです。男女で悩む事柄も違いますし、障がいなど特徴のある子には相応の配慮が必要です。色んな諸事情を考えてグループ分けしているそうです。
すみよし子ども若者支援者コンベンション
周知・啓発活動です。このイベントの場合は「支援機関の探し方」などテーマを話し合うフォーラム、支援機関のブース、資料展示などが行われています。
現場担当者会議・実務者会議・代表者会議
各々集まるメンバーは違いますが、教育・福祉・就労の若者支援に携わる各部署の方々が集まって話し合うネットワークです。
今回の講習では、この中の現場担当者会議で行われるケース検討会議についてお話になられました。
“当事者(サバルタン)”は語れない
相談する前提として、相談する側が問題意識があり、尚且つそれを言語化し、何かしらの方法で伝達することができる。逆に言えば、これができない場合は相談不能ということになります。
当事者はなぜ語れないのか?
つまり、問題意識が欠如しているか、言語化に何らかの障害がある。もしくは伝達する機会がないことに由来します。
問題意識がない
田中さんは当事者とその家族の年齢的な範疇を以下のように考えておられます。
当事者(子):0歳~50歳代/家族(親):15・16歳~80歳代
例として、精神科医の杉山登志郎さんが指摘するところの「第4の発達障がい」による虐待の連鎖の話をされました。
「第4の発達障がい」とは親による子どもへの虐待(DVなど)が、子供の成長過程で脳にダメージを与え、軽度の発達障がいを引き起こすというものです。
10代の女性が子どもを出産するに至る際、避妊という知識がないことが多くあるそうです。原因としては軽度の発達障がいが男女双方にあったりします。またその男女双方の親たちもそういう傾向がある場合があります。
つまり0歳でも十分当事者になり得るし、10代でも当事者家族になり得る。
田中さんが話された例は虐待に関することでしたが、虐待を要因とした不登校・ひきこもりは十分あり得ます。
また客観的に見て当事者である子が、「自分はそんなんじゃないから」と自分の現状を正確に把握していない場合もあり得ます。これは親・家族にも言えることです。「自分の子はそうじゃない」と。
問題意識がなければ、解決への意欲などある訳がありません。
語ることが出来ない
仮に問題意識があったとしても、それを語れるかは別の課題です。
語るという行為は、自分の感情や認識など色々なことを話すことになります。話すためには思い出さないといけません。
不登校・ひきこもりの当事者が抱く感情は怒りや憎しみ、悲しみや苦しみなどネガティブなものが多いです。時にはフラッシュバックもあるでしょう。
この“思い出す”という行為は意外と難しいものです。
田中さんは語ることが2次被害をもたらすこともあるし、また表現する言葉を持っていないこともあると指摘しています。
居場所や相談に来ている当事者は当事者でない?
支援をしていても、本当に必要な人は来ない。来るのは自分のニーズを「認知していて」「言葉にできる」人たち。
サバルタン(当事者)語り得ない。語るのはサバイバー(経験者)かそれに近い人である。
相談するという行為には高いハードルがあります。
親は地雷を踏む
田中さんは保護者面談を重視しています。何故かと言うと“地雷を踏ませない”ためです。
お分かりになっていると思いますが、“地雷を踏む”とは当事者の心を乱す、親・家族の言動です。地雷を踏む回数が減ると当事者の精神的な余裕も早く生まれやすいとのことです。
ただ、親は頻繁に踏みます。
父親の場合、非常に分かりやすい地雷の踏み方をするそうです。相談に行くことを強引に迫ったりなど。
母親の場合、実に巧妙だそうです。例えば「同級生の○○ちゃんは○○大学に受かったそうよ。あなたは○○ちゃんより頭が良かったのだから、頑張ればできる」。一見褒めているようですが、他者と比較して奮起を促しています。
アニがあえて母親の本音を口汚く(?)代弁すると「○○ちゃんはあんたより劣ってるんだから、なんでひきこもってんのよ。今からでも少しは何か頑張りなさい」となります。
ここまでは思っていないでしょうが、アニのような捻くれ者はこのように受け取るでしょう。地雷が大爆発しないことを祈ります。
時が経てば地雷が爆発しないようになりますが、精神的に不安定な頃は爆発します。
しかも、親は面談の際に田中さんなど相談員に対して地雷を踏んだことを言わないことがあるそうです。
自分の誤りを認めるのはキツイことですし、ただでさえ周囲から風当たりが強いことが多いので、負い目などから言わずに済まそうとするそうです。
ネットワークを作る意味
少々前置きが長くなりましたが、ではなぜネットワークを作る必要があるのか。
田中さんがネットワークにおいて最も重視しているのがケースカンファレンス(事例の具体的かつ徹底的な検討)です。
全国各地でも現場担当者会議・実務者会議・代表者会議といった会議は存在します。ただ実効性のある会議となると難しいそうです。形骸化していると言って差し支えないでしょう。
例えば、現場担当者会議などで各事例の情報交換はしていても、ただ情報交換しているだけで終わってしまう。
前記にあるように、当事者の年代範疇は広く、問題も複雑化しています。そして相談するにしてもハードルが高い。また親にしても全てを話す訳ではない。
支援者側にしても、各分野の専門家は揃っているが、各個人だけの力量では専門分野だけしか対応できない。
ネットワークを作る意味とは2つ。
各々が持ち寄る断片的な情報から、各分野の専門家が分析して、課題や解決策を発見する。
各分野の専門家が共通の理解をすることで、より支援の手を広げることができること。
そして、これらを実現ためにあるのがケースカンファレンスです。
ケースカンファレンスの仕方
ケースカンファレンスは一つの事例を徹底的に検討します。そして具体的な方策を決めます。
では実際にどのような手順で行われるのか、必要な要素は何なのか。
統一理解の工夫
違う分野の専門家が集ったケースカンファレンスでまず重要なのは用語の統一だそうです。
本当は同じことを言っているのに、専門用語となると別の表現になる。そこでまず誰でも理解できるものに統一する必要があります。
住吉区子ども・若者地域協議会で行われるケース検討会議(ケースカンファレンス)では以下の4段階に区分して検討を行います。
- 情報の提出と共有
- アセスメント(評価)
- 目標設定(長期/短期)
- アクションプラン
検討の際に最も重要なのは長期の目標設定です。
多くの方は短期目標は直ぐに思い付きます。ただ短期目標が先行し過ぎると、短期目標に振り回されて実際にどうするべきだったのかが分からなくなる。
支援者の側が迷子にならないように、大方針として必要なのが長期目標です。特にケースカンファレンスの初回では徹底的に議論する必要があります。
長期目標が定まると、短期目標もアクションプランもあっさりと決まるそうです。
ワーキンググループを分ける
住吉区の場合、以下の3つの課題にグループを分けています。
- 不登校・ひきこもり
- 貧困・児童虐待
- 障がい
これに関わる部署がグループに参加し、3カ月に1回(3グループでサイクルなので、ケース検討会議自体は1カ月に1回)ケースカンファレンスを行います。
当然ですが、全部に参加している団体・部署もあれば、一つだけのところもあります。
子ども・若者支援は非常に範疇が広いので、大まかなグループ分けは必要のようです。実際にグループ分けを行った頃から積極的な意見が多く出るようになったそうです。
強いファシリテーターの必要性
ファシリテータ-とは進行役のことです。
住吉区の場合、1時間程度で終了します。短時間で効率的に全てを出し切るといった感じでしょうか。それ以上は惰性になりやすいそうです。
そんな1時間の会議の中、長話をする人がいます。特に会議慣れしていない参加したばかりの方などが顕著だそうですが、事実だけを言うことができない人です。
田中さん曰く「まるでストーリーを話すかのような」感じなのだそうですが、ストーリーは事実と関わり合いのない情緒、ないし話す人の主観が多分に反映されます。そして話が長くなります。
前記の通り、色んな方がいる事例の検討では様々な意見・情報を聞く必要があります。事実だけを端的に整理して参加者と共有することが重要です。その上で重要な議題(長期目標など)を徹底的に議論します。
感情移入が強いばかりに長話をすることは、結果的にその子のためになりません。
より良いケースカンファレンスにするためには巧みで流されない進行役が必要となります。ファシリテーターの育成も重要な要素です。
再度のケースカンファレンス
検討した同じ事例に関して再度ケースカンファレンスを行います。
アクションプラン(具体的にどうするか)はあくまで計画に過ぎません。実際の結果がどうなったかを精査し分析する必要があります。
なぜできたか、なぜできなかったか。
アクションプランを修正して、最終的に長期目標につなげていきます。
ケースカンファレンスのとある例
実際にあった例をプライバシーに配慮した感じでご紹介します。
最近の若い子は辛いことを親しい相手(友人)には絶対に話しません。話す場合は匿名(ネットの掲示板など)で語ります。周囲に迷惑をかけたくないためです。
ある子も同様で親友から親に対して辛いことや悩みを話せず、信頼できる他者がいませんでした。
この子のケースの場合「1年後までに信頼できる他人を作る」という長期目標を設定し、短期目標としては「居場所で10分間、相談員と真面目トークをする」としました。
ただし個別カウンセリングはしないことにしています。学校の先生などに説教で呼び出されている生徒は、密室に近い個別相談を嫌う傾向にあります。怒られると思うためです。
結果はお話にならなかったので、おそらく現在進行形ではないかと思います。
こういった対応は一人だけで思い至らなかったでしょう。ケースカンファレンスならではだと思います。
ネットワークを作るにはどうしたらいい?
さてこういった実効性のあるケース検討会議、ネットワークを作るためにはどうしたら良いのか?
住吉区と田中さんの場合はこのような感じだったそうです。
- 住吉区の区長や事業担当部署の方が非常に積極的だった
- 事業が住吉区の単独の予算なので、比較的やりやすかった
- 事業開始から2年ほど田中さんたちが各関係者を説得して回ってケース会議設立
- 事業開始から3年後、ケース会議開始
- 更にその1年後、ワーキンググループ方式の会議に移行
- 現在に至る
実際に実効的なケース検討会議になったのはこの1・2年だそうです。
田中さんのような中心になって行動できる人たちがいることも重要ですし、周囲に同じ考えの人、特にある程度権利ある人がいることも重要です。
アニから見て住吉区の場合、ネットワーク形成の条件が比較的良いと感じましたが、それでも5年は覚悟しないといけないということでしょう。
以上で終わりです。ちょっと長くてすみません。
せっかくなので、アニなりに長崎でこういったネットワーク形成が可能かどうか考えてみました。基本アニの偏見で身も蓋もないこと書きます。
- 偉い人に理解ある?⇒住吉区ほど積極的ではない
- 田中さんみたいに中心になれる人いる?⇒意欲ある人はいるだろうけど…少なくともアニはキャパオーバーです
- 予算は?⇒長崎県も市も、規模に比べて貧乏な方
- ファシリテーターはいる?⇒みんな慣れてない
- 実効的なケースカンファレンスはできる?⇒行政関連だけでは尻すぼみ。民間をどう取り込むかが重要
- そもそもネットワーク形成に関心ある人はいる?⇒いる。ただし慣れてないからストーリーばっかり話すかも
- 実際にケースカンファレンスが上手いこと立ち上がったら?⇒ちゃんと一般への周知に気を配らないとなくなるかも
…失言がありましたことお詫びします(苦笑)
とはいえ、かなりの条件が揃わないと難しいかなと思いました。ハードルは間違いなく高いでしょう。
でも、将来的に長崎でも住吉区で取り組まれているようなことができれば嬉しいなと思います。
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